2007.06.25 Mon
晴信の、このごろやあれこれ
今川のトップが義元だったのは知ってますよ。余裕です基本です。でも北条は氏康だったのは知らなかった、というか忘れてた。ぐらいの知識で戦国時代がどうのこうのと、しかもなるたけ偉そうに、語るつもりです。
このドラマには、何度もびっくりさせられてきましたが、一番最初のびっくりはでんべえによってもたらされたのでした。
第一話。戦に向かうでんべえ(農民)が宣言してました「チャンスがあれば乱獲りを計画中」。
乱獲りって、戦のどさくさにまぎれてそこらへんの村を襲って、奪ったり、乱暴したり、とにかくそういう大変によろしくない行動を言うらしいんです。こえええ。
そんなでんべえはかつて乱捕りの被害者だったことがあったらしいのです。ひどい思いをしたことがあるらしいのです。
そして今回、ぐるっと廻って加害者側を希望してるみたいなのです。
奪い合いの精神すか。奪ったり奪られたりすか。こえええ。
それよりもっともっとだったのはミツの反応でした。
ミツ、少しもびっくりしてないんです。兄がですよ、犯罪予告してるんですよ。それなのにですよ、それなのにびっくりしないなんて、なんてびっくりなんでしょう。
農民達は乱獲り受け入れてるってことすか。日常の1ページですか。こえええ。
そしてわたくしめは興奮を鎮め、作者がこれから描こうとする世界に深く感動したのです。
なんてアグレッシブな世界観。
晴信はそんな時代に当主をやってるんです。それはそれは大変なことでしょう。ジーコやオシムとかの何十倍も何百倍も大変なことでしょう。
■そんな世界を「力」で抑えつけ、独力でサバイブしてきた武田信虎
甲斐を統一した信虎。どのように描かれていたのか思い出してみます。
・とにかく怖いんです。サイコです。皆から怖れられてます。
・軍議は「口が無くなった」ような状態です。軍師が死んでからこんな調子なんだそうです。
・聞く耳を持たないんです。家臣の言うことなんて、はなから聞く意志がないんです。軍師の話は聞いてたみたいですけど死にました。
・一人で決断します。軍師が死んでからだそうです。
・そして「孤独」です。軍師が死んでからだそうです。
・内政より外政です
■一方、前々回(第二十三話)までの晴信はどうか
・貫禄はありますが、怖れるほどではありません。
・軍議では、いろいろな意見が出されます。時には冗談も飛び出します。
・家臣の意見に耳を傾けようと努めます。所信表明でもそう言ってました。
・意見を聞き、自分が決断します。頼れる軍師もいますし。
・確かに「孤独」です。でも、由布姫の不思議を相談したり、父への不安を吐露したり、自らの孤独を告白したりする相手がいます。
・水路とか作ってました
二人を比べてみると、それぞれが持つもの、持たないものが分かります。
一番に目立つ違いは、他者への視線と関係性。
「俺様。あとは、その他大勢。それが甲斐の国」と「俺、あいつ、あいつ、あいつもいるし、あいつもいる。それが甲斐の国」の違い。前者が信虎、後者が晴信。
信虎の立ち位置は相当壮絶です。絶対的な孤独です。
■そして、前回(第二十四話)なんと、ひっくり返るのです。晴信の信虎化です。
唐突な感じを受けますが、その時に向けて、退路がひっそりと静かに絶たれて行く。そんな風に作られていたように見えました。行き先は孤高の世界で、信虎の影がちらつく所です。
まず、軍師(勘助)の死が晴信の心を襲います。
このドラマ、最初のほうからずっと描かれてきてるんです、武田に必要なのは軍師だ、と。
甲斐には潜在能力がある、足りないのは軍師だけだ、とか
晴信が光輝くためには、影となり働く者が必要だと大井夫人に言わせたりとか、いろいろです。
勘助に対する晴信の信頼がでかくなってきたこのタイミングでの「死」。
しかも勘助は、軍師以上の存在でした、あれやこれやの話し相手でしたから。
けっこう来ますよ、惑いますよこれは。
■そしてまたしても、由布姫が無自覚にやらかします。晴信とのシーンです。
当たり前なことですが、晴信と勘助ってものすごく上下関係で安定してます。
例えれば、鵜飼(晴信)と鵜(勘助)。勘助がいくら上等な鵜であったとしても所詮、鵜飼の鵜です。主人の思うとおりに魚を捕まえるのがせいぜいです。。
そんな主人に由布姫は何を語っていたのか。
「勘助が、晴信様に天下を取らせたいって言ってた」
まあ、これはまあね。けっこう危険球周辺ではあるけど。
でも、次が・・・
「晴信様は情けを大事にする人だから、勘助みたいのが側にいないと戦とかそんなにやれないんじゃないかな」
「板垣が言ってた、勘助がいないと晴信様はもっと速攻で負けてたかも、だって」
ひどいなあ由布姫。ショックみたいだなあ晴信。
ずいぶん勘助を持ち上げるようなことばかり言ってますし。
なめられてるの俺、って聞こえると思いますよ。
勘助あっての俺なの?って聞こえかねませんし。俺が鵜とか思われてる?
しかも、時期が悪い。よりによって佐久がまた謀反起こしてる真っ最中です。またですか。もう何回目ですか、って感じです。
こちらもまた、「何度も戦でやっつけてやった。またまた戦をしかけられた。あれ? なめられてる?」って感じです。
■勘助・由布姫・板垣
このドラマで孤独についてだったり恐怖だったり相談だったり、そういう個人的な事柄を晴信が他人に話したのって、(多分)この三人に対してだけだと思うのです。
勘助には、まあいろいろ、あんなことやこんなことを相談してましたし、
由布姫とは、お互いの孤独を持ち合ってやっていこうみたいに口説いてましたし
板垣には海ノ口城で「(信虎に)殺されとうない(略)そなたをこそ父と思うておる」って言ってましたよ。
晴信が呟くように言う「わしはさように思われていたのか」。
これはおもーい台詞でした。
晴信にとって重要な三人。彼らの晴信像と晴信の自己イメージの間の溝、理解者の不在。
■力への欲求。支配への欲望。そして能力の証明
由布姫は「生来、晴信は情けを大事にする人」って言ってましたけど、晴信はそんな人じゃないですよね。
どっちかっていうと、「血は争えない」とか「蛙の子は蛙」の自覚を持ってる人だと思います。
諏訪との戦の時かな、晴信自身がそんなことを言ってたはずです。寅王丸を戦で利用しようとしたときに、自分には信虎の血が流れてるみたいなことを。
そういう自覚があって、しかし信虎のやってきたことを反面教師にして理性的に行動してきた人だと思うのです。
その結果がどうですか? 家臣にみくびられ(と思い込み)、雑魚に甘く見られ謀反を起こされ続けてる、ですから。
なんだか信虎の背中が見えてきます。
独力で決断し行動し、家臣に怖れられ、けして侮られることなく、力で甲斐を統一し、周辺国をびびらせてた信虎が・・・。諏訪頼重のことを思い出してもかなりびびってましたし。
■整理します
1、勘助の不在
2、信頼する家臣と自分の関係
3、周辺の国々の武田をみる視線
これらの事柄が一時に起こる。そして、いろいろ誤解してしまう。それでも自分は当主として乱世をサバイブしなければならない。
しかも、晴信は「慢心警報」が点灯してる状態です。自らの力を過信中です。
それで信虎化なんじゃないのかなあ。
反面教師から、「反面」が取れて、教師に格上げ。
それで力攻めで、戻ってきた勘助をすぐさま諏訪へ行かせたりするんじゃないのかなあ。
自分に足りないものを信虎的なもので補おうとしてるんじゃないのかなあ。
他者を頼らず、孤高のおやかたさまを目指してるんじゃないのかなあ。
■そして今回(第二十五話)
勘助、放っておかれたままでした。
そのことに対して、なんの思いもなさそうな勘助でした。
次回の予告をみると、晴信から突き放されたりするみたいですね。
晴信。信虎化が一層進んでました。
内政も軽んじそうでした。
■思いついたこと
・嫉妬について
どうなんでしょう。晴信は嫉妬深い人物に描かれてきてなかったからなあ、そのへんはよくわかりません。どうなんでしょう?
| 風林火山 | 01:35 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

TBありがとうございました!
実はTB頂く前に既に記事は拝見していたのですが、utsubuse様の洞察の深さの前に浅はかな私は語る言葉を持たず、これまで悶々と考えておりました。
戦国時代の喰うか喰われるかのすさまじい現実と、その時代に一国の当主たりうることの重さ、苦難。
ましてや甲斐は山あいの貧しい国。そして当主となったのは他ならぬ自分自身の決断であり、誰を怨むこともできない。
そんななかで、晴信は自ら理想と信じたやり方でこれまで統治してきたのですね。
それが突然、由布姫の口から語られた他者からの(それも誰より信頼している板垣の)評価という形で、覆されたのですね。
「わしはさように思われていたのか」
このセリフの重さを、ようやく理解することができました。由布姫の語った言葉がなぜ衝撃だったのかも。
ドラマでは演じられませんでしたが、ノベライズには、ある印象的なシーンが描かれています。
由布姫を諏訪に帰した頃、晴信が由布姫のことで責め口調の大井夫人に、
「それより母上、これをご覧くださりませ」
と、掘り出した金を見せるのです。
「母上、お喜びくだされ。年貢のみに頼らず、戦を進めることができまする。─(中略)─甲斐は今や、はかり知れぬ強国となりつつありまするぞ!」
このとき以降、大井夫人は信虎の影を晴信に見出すようになる───というものです。
見たかったな、金を鷲づかみにする亀治郎晴信。
こういう伏線は残しておいてほしかった。(削られたのか、書き加えられたのかは分かりませんけれども)
それにしても、「そなたをこそ父とも思うておる」と吐露した板垣に、なぜ直接真意を訊けなかったのか…
直接そうと聞かされるのが怖かったのか。訊ねたところで、正直に告げるわけがないと思い込んだのか。もらしたことで由布姫が責められるのを庇ったのか。
「わが意にまことの見えざる時はいつなりとそれを諌め、それでも聞き入られぬ時はわが首をすげ替えてかまわぬ」
御旗楯無の前でそう誓ったことを、晴信は忘れてしまったのでしょうか。
こうして信虎路線を歩みだした晴信、砥石城の戦いで板垣が命をもって諭したときに、後世の民政に篤い信玄像へとどう変わるのか楽しみです。
ところで、嫉妬について。
どちらかといえば、私はそちらの心情ばかり考えて(邪推ともいう)おりました。
嫉妬というより、屈折した欲望というか。
嫉妬深い風には描かれてませんでしたけど、人との絆の求め方が何やら屈折した感じではあったと思うのですよ。
以前からやたらと勘助様を由布姫の側に遣わしていたのには、他の家臣がみな反由布姫ということもありますが、一種の享楽趣味を感じさせました。
女性問題には疎そうな勘助様をからかって悦んでいるような。
はたまた、由布姫と勘助様の間に何がしかの絆を感じて、でも主である自分はそのふたりの上に立っているわけで、自分の掌の上でふたりを転がして楽しんでいるような。
あるいは、お気に入りの勘助様と、ひとりの女性をあたかも共有しているような、ちょっと淫靡な快感というか…
とにかく一段高いところ、三角形の頂点からふたりを見下ろしてご満悦な感じだったのが、前回は違いましたね。
「その方が、由布も喜ぼう」
すごい複雑な表情と声音でした。思い返せば、亀治郎さんのここの演技は凄かったかも。
同じ位置に、ひょっとするとふたりより低いところまで堕ちてました。
由布姫の発言で、晴信が由布姫の心情を(国主としての評価ではなくて)どう誤解したのか、正直私にはよく分かりません。
由布姫が自分より勘助様を能力ある男とみなしている、という嫉妬なんでしょうか?
ただ感じたのは、勘助様を由布姫の側に遣るのが、今回ばかりは晴信には面白くない、むしろ自分を苛むことだということ。
なのに、遣わせる。まるで、痛む虫歯に、さらに疼くと分かっていて舌先をやらずにはいられない心理のように。
ちょっとマゾヒスティックというか、何なんでしょうね、自分が苦しむと分かっている方向にあえて物事を運ばずにはいられないというのは。
父・信虎への愛情を得られず、悩み苦しみながら屈折して育った少年時代が効いている。そんな風に思うのであります。
ふと気付くと、すみません!とんでもなく長くなってしまいました。(汗)
そんなわけで、utsubuse様の説得力あるご考察に晴信像が何となく理解できた気のする私、今はなぜ勘助様が四郎にあそこまで入れあげるのか、ひたすら考えております。
共感はできないけれど、何となくこうじゃないかな〜みたいなところが見え始めてきたので、いずれ書いてみようと思います。
(とてもutsubuse様のように論理立てては書けませんけれども…)
| あきみさっち | 2007/06/27 00:07 | URL | ≫ EDIT